ロンドンから見た震災の姿(一ヶ月のまとめ)

3月11日の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から、正直ブログという気分にもなれず投稿が滞ってしまっていたが、有名人、ボランティア、一般市民、そして当事者である被災者の人々など皆さんが前向きに活動されている姿を報道を通じて拝見するにつれ、自分も今できることをしっかりとやらなくてはと思い、(当ブログを見ている人は大して多くないかもしれないが)また細々とやっていきたいと思う。
今回は震災があってから今日までの間、こちらでどのようなことがあって何を考えてきたかを振り返って、整理してみたい。

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1.発生直後
家にテレビがない私は震災の発生を知る由もなく朝から大学の授業に出席。休憩時間に講師から「日本で大きな地震があったらしいが大丈夫か」と指摘され、スマートフォンでニュースを見るとM8.8の大地震発生、とある。あわててまずは両親にメールを送り、幸いにも北海道内陸部は大きな被害がなかったということで無事を確認。当日はさらに東北出身の友人や親しい友人に連絡を取り、無事を確認するとともに状況を教えてもらった。結果として私の友人の家族には大きな被害がなく幸いであったが、ちょうど仙台にいた友人はなかなか連絡がつながらず、数日後にようやく無事とわかったときにはほっとした(Facebook上に「無事です」と彼が投稿したのを見て知る、という従来にない形でわかったのだが)。
日本の情報を手に入れるために一番役に立ったのはやはりNHK(日本語だし)。今回いくつかの動画サイトでNHKが無料配信されており、おそらくテレビがない被災地への配慮だったかと思うが、海外にいて通常NHKを受信できない日本人にもとても活用されたと思う。当日、翌日はほとんど釘付けでNHKを見て、その規模の大きさに恐ろしくなった。ただ、NHKの報道でも原発の状況を中心に、情報の精度・確度がいまいちな点があったと感じられたし、海外メディアでの報道で流れている情報や映像(原発の爆発シーンなど?)が国内メディアで流れていないということもあったようで、そういう点でBBCや新聞社(Guardianなど)のサイトを同時に見ておくことも役に立った(とはいえ、海外メディアの信頼度が日本人の間で根拠なく高い気がするが、結構こちらのメディアにも不確かな情報や煽り記事のようなものもあるので、注意したほうがいいかと)。
政府のHPには様々な一次情報があり、(もし数値の改ざんや事実関係の隠蔽などがなければ)それによってある程度の安心を得ることができるのだが、いかんせん説明不足(数値をどう解釈すればいいのかわからないのに、メディアも政府もわかりやすく説明してくれない)であり、またとても見つけにくい(情報発信の仕方に問題があるのではないか?)という状況で、あまり使いやすいものではなかったように思う。自分も文科省のHPで放射線の計測結果を探すのにとても手間取った記憶がある。
あとはTwitterも連日追っていたが、あのツールは安否確認やボランティア活動、物資の配送などのロジ関係には強力な威力を発揮すると感じた一方で、原発についての議論など事実がはっきりしない状況での議論では、リテラシーがないと不安を煽ったりミスリーディングなことを起こしやすいメディアだな、と思って見ていた。


2.発生から一週間前後
発生後数日で、いくつかの大学で日本人学生有志による義捐金活動の計画が進みだし、こちらにはロンドンの大学に通う日本人のネットワーク内のメーリングリストがあるのだが、それで知った私も活動のお手伝いをすることになった。確かLSE(London School of Economics and Political Science)での活動などは朝日新聞等の日本メディアにも大きく取り上げられていたと聞いているが、私の所属する大学を含むそのほかの大学でも大なり小なり、日本人学生が活動を行っていた。実際に募金活動をして驚いたのはこちらの学生のチャリティに払う金額の大きさ。50ポンド札(約7000円)、20ポンド札(約3000円)がぽんぽんと募金箱に入っていくさまを見て、これはチャリティ精神の違いなのか、あるいは今回の災害規模の大きさによるものなのか、日ごろ日本に抱くイメージのよさなのか、など考えてしまった。
また、こちらの新聞・テレビでも震災のことが連日トップニュースで報じられていたこともあってか、講師やクラスメートもとても好意的で、募金の準備で授業を休まざるを得ないときなど講師も快く送り出してくれたし、クラスメートもノートを貸してくれたり実際に募金会場に来てくれたりとさまざまにサポートをしてくれた。クラスでも当然震災のことが話題になったが、主な話題は「原発はコントロールされているのか?」と「津波で壊滅した街は今後どうなるのか?」の2点。時間がたつにつれて話題は原発の比重が大きくなってきたが、これはやはりイギリスにも影響が及びかねないという懸念からであろう。あと、「日本人が海外に大量に移住することになるのか」という質問もあり、これは移民が大きな問題となっている欧州ならではの視点だなあ、と感じた。原発について答えるのはやや困難であったが、一貫して「コントロール下にある(対処する術がない状況にはない)が、対応には長期間を要すため一朝一夕で事態は改善しない」と答えておいた。入手できる範囲で各種報道や数値、専門家の分析などを比較・検討した限りでは、現在においてもその状況は変わっていないと思っているのだが、日本で皆さんが抱いている印象はどのような感じなのだろうか。
一方、日本の友人とも引き続き連絡を取っていたが、その重苦しい雰囲気の文面から事態の深刻さを感じることが多かった。エリアメール、計画停電といった今まで耳にしたことがない単語を始め、デマ・チェーンメールの問題、原発の現状についての分析、水質汚染・物流などの問題、報道のあり方など多岐に渡り教えてもらったが、どれが人災でどれが天災なのか判然としないものばかりで、とにかく今は事態がよくなることを祈るしかない、という気分になった。政府や東電を批判するのは簡単だが、いまそのエネルギーを批判に割くべきかという問題がまずあり、また今回の災害の規模を見ればすべてが人災でないのは明らかで、ヒステリックに責任を追及してもリスク管理上のメリットは得られないことも留意すべきだと思う。しかし一方で、東電の対応が万全であったとはとてもいいがたいだろうし、政府の対応に問題点も多々あったようだ。今後の被災者保護や復興に向けた取り組みを効果的に進めていく上で、建設的な批判は当然あってしかるべきであろう。問題は、どの批判が建設的なのか、ということだが…


3.発生から2週間以降
こちらの報道はこの時期になるとだいぶ落ち着いてきて、新聞などだと見出し一覧の下の方に「Fukushima」という単語が含まれた見出しがある、という感じで推移している。大きな関心は英国政府の歳出削減改革、リビア等のアラブ情勢、コートジボワールでの衝突、ユーロ危機(ポルトガルが支援を申請、スペインは…?)などに移っていて、当然といえば当然なのだが、震災についての関心も薄れてきているように思う。
日本においても、特に西日本を中心とした被害が比較的小さかった地域において、自粛モードからの脱出や日常への復帰が大きなテーマになってきているようだが、ある意味それは仕方がないし、必要なことだと思う。もちろん節電などの取り組みは中長期的に必要なことだから仕方ないが、それぞれ皆さん日常の暮らしで精一杯であった震災前の暮らしがあるわけで…。そういった面で言えば、ボランティアなどの支援活動でできることがある人は個人レベルで支援に注力できればそれはすばらしいことだが、被災者の方の支援は公的な組織が責任を持ってやるべきことで、ボランティアなどの善意に頼りすぎることはおかしいという感覚をもっているところ。自粛やボランティア活動への参加が個々人の負担になってしまうことも心配だし、すべての国力をそこに注ぐ必要はなく、逆にこれまで当たり前に行われてきた経済活動等がおろそかになってしまうことが怖い。その意味では、たとえば公的機関の力が不足しているならば、ボランティアではなく仕事(=経済活動)として皆さんの力を借りることなどが求められるのではないか。

(とは書いたものの、先日日本から友人(東京在住)がロンドンに遊びに来たのだが、お話を聞くと引き続き東京も物資の不足など大変な状況で、また物流の不具合や物資の不足が西日本にも影響を及ぼしつつあるということであるなど、現状について認識を新たにしたところ。そう考えると、実際に苦難を体験していない自分には自粛について発言する権利もないのかもしれないが、外から見た意見としてご容赦いただければ。)

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このような感じで私の一ヶ月は推移していった。実際にはこの間に授業やプレゼン、エッセイの宿題も多々あったが何とかこなし、2学期が終わりいまは春休み。柔道とかクリケットとかそういうものはなんだかばたばたしている間に吹っ飛んでしまったし、3月12日に受けるはずだったIELTSのテストもそんな気分じゃないということでサボってしまったが、学業だけはずっとそうしているわけにもいかない。
ロンドンの日本人学生の有志の方々の中には各大学の義捐金活動が終了した後も、復興のための政策パッケージの検討や日本のイメージ悪化防止のための取組など積極的に活動されている方々もいるようで、自分にはなかなか真似できないがすばらしい事だなあ、と感じている。私も、まずは自分ができることからということで、最優先にすべきである学業が疎かになることが無いよう頑張っていきたい。


最後に、まとめという意味も込めて、今震災について考えていることを大きく2点。

<①情報のあり方について>

最近は改善されてきているのかもしれないが、特に原発報道で思ったことは、政府・メディアともにわかりやすく説明する能力が不足しているのではないか、ということ。
例えばテレビで放射線量の数字を出すにしても、「昨日の計測値の何倍」と言われてもそれだけでは危険かわからないし(「何倍にも増加しているからやばいのではないか」という印象だけが一人歩きする)、「基準量の数倍だが人体に大きな影響は無いので安心」と政府が発表したといっても、それであればなぜそんな小さい数字を基準量にしていたのか?ということが全然わからないため、その結果信用が無くなる、などの状況があったように思う(基準量についていえば、多分、人体の影響という点ではもっと余裕があるのだが、ある程度国際的に見ても厳しい数字を規準としないと原子力政策の推進について世論が納得しなかった、というような理由があるのだろうけれども)。
また、東電や政府の情報後出しや情報の丸め方(ざっくりとしか出さない)を見て思うのは、国民を子ども扱いしすぎじゃないかということ。正直にもっとおおっぴらに出したってパニックになんてならないと思うし、むしろ「本当は隠された情報(=真実)があるはずだ」と多くの人が思う状況を生み出してしまう方が、情報の信用力が落ちデマなどの影響も大きくなってしまい、混乱状況に拍車がかかってしまうように思うが。


<②政府の視野について>

世界は止まることなく動いていて、特にアラブ世界の民主化の流れは石油資源を同地域に依存する日本にとって極めて重要な問題であると感じる。現に民主化に向けて一歩を踏み出したエジプトには日本以外の先進国首脳が相次いで訪問し、その存在をアピールするとともにエジプトの歩みをサポートする姿勢を打ち出している。またアジア地域においてもこの震災に乗じてかはわからないが、ロシアが福島近くまで偵察機を飛ばしたり、韓国が竹島での基地建設計画を公表したりするなどきな臭い動きがあり、アメリカが日本の復興を全力で支援することを通じて地政学上のバランスをとろうとしている姿勢が垣間見えている。一方で経済についても、ポルトガルがEUに支援を申し出るなどユーロ体制の不安定さは引き続きリスク要因としてあるなど、問題は数多い。
そういう中で日常的に遂行されるべき外交・内政政策が停滞することがとても心配なのだが、今の政府の状況を見るととてもそこまで目が向いていないように思える。もちろん震災の対策は最優先に行われるべきだが、少なくともトップの目がそれのみに注がれる状況は避けなければならないはずで、政府の人員も限られた中で大変であるとは思うが、せめて政治には広い視野を持ってもらい、遅れをとらないようにして欲しい。