Genographic Projectでわかる自分の遺伝的ルーツ

外国で暮らしていると、周りを外国人に囲まれていることもあり、改めて自分が何者であるか(人種とか国籍とか、文化とか?)が何となく気になってくるものなのかもしれないが、その例に漏れず僕もそんなことが気になっていたわけです。

それで、試しに自分の遺伝的ルーツでも調べてみようと思い立ち、National GeographicとIBMが共同で実施している「Genographic Project」で検査してもらうことにした。


このプロジェクトは、世界中の人類の遺伝子のうち、先祖から固有に引き継がれる「遺伝子マーカー」と呼ばれる部分を収集・分析して、人類がその誕生からどのように移動・拡散していったのかを明らかにしよう、という壮大なものらしい。
ちなみに検査には100ドルほどかかるので、それほど安いものでもないのが痛いところ。

検査には2種類あって、Y染色体を分析して父系の系譜をたどるものと、ミトコンドリアを分析して母系の系譜をたどるものがあるが、今回は父系の方を選択。

これまで親から聞かされていた話や自分の名字にまつわる伝承などを総合すると、僕の家系をさかのぼると奈良・平安時代頃に朝鮮半島から渡ってきた渡来人が先祖である可能性もあるのだけど、その一方で顔が東南アジア系に似ていると言われることもよくあるので、どんな結果が出てくるか…

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そして、サンプルを送って2ヶ月ぐらいで結果が到着。


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分析の結果によると、僕の祖先をたどると、もとはアフリカで発生し(全員そのはずですね)、その後中東、イラン、中央アジアと経由し、その課程で幾つかの遺伝子構成を新たに取得した集団が分化していき、最終的に「Haplogroup(ハプログループ)O (M175)」という遺伝子グループに所属する人々が直接の先祖である、ということがわかった。

そこで、このO(M175)というのが何を示すのか、ということだが、まずHaplogroup(ハプログループ)というのは、単一の染色体上にある遺伝的な構成が近い構成をまとめたグループのことで、要すれば、今回の検査で言えば同じハプログループに所属する遺伝子を持つ人は同一の先祖を持つ可能性が高い。

そして、Genographic Projectがくれた「Haplogroup(ハプログループ)O (M175)」の説明によると、中国人男性の半分はこのハプログループOであり、それのみならず東アジア、東南アジア及び中央アジアに多く見られるグループらしい。


ハプログループOの分布図 出典:Wikipedia
File:Haplogrupo O (ADN-Y).PNG - Wikipedia
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ちなみに、ハプログループには古来からの人類の遺伝的な分岐の結果たくさんの種類があり、地域によってその割合が異なっているとのこと。

そして、日本には他の地域と比べて多様なハプログループが残されているらしく、その原因としては地理的なもの(閉鎖された島国)、歴史的なもの(大規模な征服によるY遺伝子の上書きが起きなかった)などが影響しているとか。



各ハプログループに属する集団の移住経路(推定)
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世界の各地域におけるハプログループの割合
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さらに、上の図などからもそのように見えるが、日本で見られる主なハプログループはC、D、O(僕の所属するグループ)の3種類で、それぞれの特徴を簡単に書くと、下記のようになるらしい。

  • ハプログループC
    • ポリネシア(含アボリジニ)や東南アジアの一部、モンゴル等を中心に広まっているグループ。
    • いわゆる「貝塚文化」の担い手とも言われる。
    • 日本人に占める割合は1割程度。
  • ハプログループD
    • 日本(含アイヌ)とチベット、アンダマン諸島(インド領)で特異的に割合が多く、他のアジア地域ではほとんど見られない。
    • いわゆる「縄文文化」の担い手とも言われる。
    • 日本人に占める割合は3割程度。
  • ハプログループO
    • 中国、韓国で多数を占め、日本でも一番多いのがこのグループ。ベトナム、タイ、インドネシア等の東南アジアでも多い。
    • いわゆる「弥生文化」の担い手とも言われる。
    • 日本人に占める割合は5割程度。

なお、細かく言うとOは大きく3種類に分類でき、それぞれに分布の特色があるみたいだが、今回の調査ではそこまで細かい結果はもらえていない(英語で書いてあるので見落としているかもしれないが)。
一説では、南中国と日本で多く存在する「O2」という遺伝子の人々が、稲作文化を持ち込んだとも言われているようだ。

これ以上詳しくなると僕の手には負えないので、リンク先にある解説を見ていただければ幸いです。
日本語のサイトでも丁寧な説明をしている方がいるみたいなので、今回は一つだけあげさせていただきますが、探して見ると結構あるはず。

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というわけで、結局僕の出自について言えば、Oグループということがわかったので先祖が渡来人である可能性は否定されなかったが、言われているように平安時代頃に朝鮮から来たのか、あるいはもともと弥生時代に中国か朝鮮辺りから渡ってきた人々の子孫なのか、という部分は今回の調査結果からはわからないというのが正直なところですな。

ただ、このGenographic Projectが今後進捗してさらに精度が上がったら、今回の結果を書き直してまた教えてくれるらしいので、その辺の細かい部分の検証は今後の研究の進展に期待したいところ。

あと、せっかくロンドンのような多国籍なところにいるのだから、もし周りの留学生でこれをやっている人がいればその結果を是非見てみたいし、親しい人にはやってみるように勧めてみたいと思う。
きっと、出身国ごとにいろんな結果が見られて楽しいでしょうね。

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(補足)
実はこのM175というのは僕の遺伝的構成の中で最後に取得されたもので、その前にも、特徴が分岐する前のものも沢山積み重なって、僕の遺伝的構成を構成している。
その流れはGenographic Projectの説明によると以下のようになるらしいので、興味がある方は見ていただければ。
なお、括弧でくくられている2つはまだ研究途上で詳細が良くわかっていないらしく、説明がなかったもの。

<僕の遺伝子マーカーに保存されている遺伝子構成の種類>

 ①M168→(P143)→②M89→(L15)→③M9→④M214→⑤M175


①M168
最も古い僕の先祖は、アフリカから発生したM168という遺伝的構成を持つ人たちである。
彼らはアフリカの北部・東部に居住していたが、おそらく気候変動(氷河期の終わり?)に合わせてアフリカの外への移動を開始したらしい。

②M89
アフリカから移動したM168という特徴を持つ集団であったが、その中から4万5千年ほど前に、M89という新しい遺伝的構成を持つ人たちが現れ、主に北アフリカ・中東に居住していた。
彼らもまた僕の先祖と言うことができるが、現生人類のうちアフリカ以外に居住している人の90〜95%がこのM89という遺伝的構成を持っているらしい。

③M9
さらに、M89を持つ人々の中から、イランや中央アジアに移住する人が出てきて、その中でM9という構成を持つ人たちが4万年頃前に現れた。
そして、彼らは狩猟生活を行いながら、イラン高原から中央アジアの高原部・平原部を東へと進んでいったらしい。
現在、ヨーロッパ方面やインド方面を含む、北半球に居住している現生人類の多くがこのM9という遺伝的構成を持っているらしい。

④M214
そのように東進を続けていたM9集団の中から、3万5千年ほど前に、アラル海の東側辺りの地域で新しい遺伝的構成であるM214を持つ集団が誕生した。
彼らはユーラシア大陸東部に広く居住していて、現在も僕のようにその構成の名残を遺伝子に持っている人々がユーラシア大陸東部は多くに居住しているが、M214が最終的な遺伝的構成である人類は現在とても少ないらしい。
その理由はいろいろあると思うが、M214より新しい遺伝的構成を持った民族であるモンゴル帝国の拡大で駆逐されたのではないか、という説もあるとか(征服民族のY染色体が被征服民族のY染色体を駆逐することは良くある)。

⑤M175
そして、M214を持つ集団の中から、同じく3万5千年ほど前に、中央アジアから東アジアにかけて、M175という構成をもつ人たちが生まれたらしい。
この人たちが本文で述べたとおり僕の直接の祖先で、僕とY染色体の遺伝的構成を同じくする人々である。